Activities Overseas Reports

渡航報告:スイス・University of Zurich (Ueli Grossniklaus Lab)

IKEDA Yoko (Okayama University)

Sep. 2, 2025

2025年7月最終週~2週間半の間、スイス・University of Zurich のUeli Grossniklaus 博士のラボに滞在し、ゼニゴケを用いたレーザーマイクロダイセクション法による遺伝子発現解析の実験を行いました。

Grossniklaus 博士のラボはチューリッヒ中心部の大学の植物園にあるビルディングのほぼ1フロアを占めていて、数十人規模の大きなラボです。植物園はドーム型の温室を3つ備え、展示や管理が行き届き、植物や森に囲まれた落ち着いた環境で研究を行うことができました。博士のグループは以前からレーザーマイクロダイセクション法を用いた解析を盛んに行なっており、今回私が対象としているゼニゴケの解析も得意としているため、KEPLRを利用し共同研究で訪問する機会を得ることができました。

実験では、久しぶりに扱うミクロトームに最初苦労しましたが、全自動のパラフィン置換装置や、最近導入されたレーザーマイクロダイセクション用顕微鏡などの機器を活用し、効率的に研究を進めることができました。限られた滞在期間のため、今回の目的である組織サンプルを十分に集めるには至りませんでしたが、ゼニゴケを用いた実験方法を学び、実際にどの程度の労力が必要かを体感することができ、大変有意義な滞在となりました。また、実験だけでなく、アフターファイブでは、植物園所属ラボ全体でのバーベキューや卓球などを通じて研究室の方々と交流する機会にも恵まれました。

チューリッヒ滞在中は、KEPLRによる訪問滞在者用として、同大学の清水健太郎博士のラボの方々が滞在している家の一室が確保されており、そこを宿として利用させて頂きました。チューリッヒ市街地近くの川沿いの自然豊かな住宅街に位置しており、空気も澄んでいて、大変リフレッシュすることができました。一方、生活面では、スイスフラン高+円安の影響により、物価の高さに悩まされた(大学の食堂の昼食が3000円、ビッグマック1つが2000円でした!)こともご報告しておきます。

今回の訪問で、研究・交流・生活において、多くの新しい経験を得ることができ、大変充実した滞在となりました。今回KEPLRでこのような機会を与えてくださったことに感謝しています。今回学んだことを今後の研究に活かしていきたいと思います。

Author

IKEDA Yoko (Okayama University)

  • Associate Professor
  • Kohchi Group
  • Kyoto University

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KEPLR Room利用体験記

OKAMOTO Fumika

Aug. 30, 2025

名古屋大学理学研究科の岡本奎花です。2025年6月に1週間ほどチューリッヒに滞在し、清水健太郎教授、Ueli Grossniklaus教授、Cyril Zipfel教授の研究室を訪問した際にケプラールームを利用しました。

チューリッヒ国際空港から電車で30分ほど揺られると最寄り駅に到着します。白壁の一軒家がシェアハウスとなっており、三階の一室がケプラールームです。駅からは徒歩10分ほどで、駅の近くにはバス停もスーパーマーケットもあり、便利な立地です。チューリッヒ大のキャンパスへは1時間ほどです。また、近くには川が流れており緑も多く、自然の豊かさを感じられる素敵な場所です。昼間は鐘が鳴り響いて時間を教えてくれます。

部屋にはデスクとベッド、ハンガーラックがあり、不自由なく過ごせました。また、私が滞在したときは暑い時期だったため扇風機も用意してくださいました。

ケプラールームの様子(左)ベッドと扇風機(中央)ハンガーラック(右)デスク

共用のスペースとしてキッチンとダイニング、そしてバスルームがあります。キッチンには冷蔵庫、食洗機、電子レンジ、そして炊飯器がありました。ダイニングからは庭に出ることができ、何度か近隣の猫ちゃんと遭遇しました。バスルームにはシャワーブースに加え洗濯機と乾燥機があり、さらには広い洗面台もありました。

キッチンとダイニングの様子(左)キッチン(中央)ダイニング(右)庭に来た猫ちゃん

基本的な物価が日本よりも高く、特にレストランや出来合いの料理は高価なため、自炊をするのがお財布に優しいと思います。私は非常に短期の滞在であったため、ほぼサラダとパンを食べて過ごしましたが、近くのスーパーには米なども売っていました。

チューリッヒは治安も良く、駅からの道も街灯が煌々と照らしているため、日が落ちた後の帰宅でも不安はありませんでした。非常に過ごしやすい街だと感じました。1週間という非常に短期の滞在でしたが、とても充実した時間を過ごすことができました。

渡航を決めたのが急であったにもかかわらず、ご対応してくださった土金勇樹先生と高橋太郎さん、そしてシェアハウスに滞在されている皆様に感謝申し上げます。また、研究室訪問に際し、ご対応してくださいました皆様にお礼申し上げます。

Author

OKAMOTO Fumika

  • Sato Group
  • Nagoya University
  • Environmental Responses
  • Imaging

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渡航報告:Shimizu Group, University of Zurich

Shunsuke Yoshioka

Feb. 15, 2025

京都大学農学研究科の吉岡俊輔です。 2023年11月から2024年11月までの1年間、チューリッヒ大学の清水健太郎先生の研究室に滞在していました。今回はその体験談を記したいと思います。

渡航前・到着直後

受け入れ先に関しては、受け入れ先のPI が共同研究者でもあった清水先生だったので非常にスムーズに話が決まりました。スイスに1年以内の滞在をする場合は、居住許可証が必要ですが、チューリッヒ大のオンラインフォームから必要書類をアップロードして承認されると、チューリッヒ大の事務の方々が後の発行手続きをすべて行ってくれました。もう少し面倒な手続きがいるのかと思っていたのですが、本当にスムーズに必要な書類の準備をしていただき驚きました。現地に到着すると、まず移民局で登録、住居のある市の役所で住民票の登録、現地での保険への加入、スマホの通信の契約などの手続きをすませました。これらについても特に大きなトラブルなく済ませることができました。

現地での生活

スイスではシェアハウスが主流でした。個人の部屋が一室あって、バス・トイレ、キッチンを共有するというタイプです。僕の場合は、大家さんである60代後半の素敵なご夫妻ソーニャ、マーカスさんのご自宅の一室をお借りして、キッチン・バスはシェアという形でした。スイスは特に部屋探しが大変で、部屋を決めるのに何回も内見にいって、数ヶ月もかかるというのが一般的です。僕の場合は、幸運なことにソーニャとのオンライン面接だけで採用されました。ソーニャ曰く、息子さんであるオリバーが「日本人は間違いなくいいやつだから」(??)と言ってくれたのが決め手だったようです。そのため渡航前に部屋を決めることができました。ただ、チューリッヒ大学に長期滞在される方は、まずホテルか清水先生のお知り合いの家に一時滞在してから部屋を探すことになる場合もあるかと思います。

日々の食事は、スーパーで買って自炊をしていました。レストランの食事は5000-6000円以上はかかるので、あまり頻繁に外食はできません。また、日本のように一人でふらっと入れるコンビニや安いチェーン店がないので、自分で作るしかない状況でした。スーパーの食品は比較的安いです(人件費が高いので加工の工程で人の手が入るほど値段が跳ね上がるイメージです)。僕は安いトマト缶やツナ缶を買い込んでパスタをつくったりしていました。お昼は前の日に作った余りものをもっていったり、学食で食べたりしていました。ちなみにチューリッヒ大学の学食は、(スイスにしては)リーズナブルな値段(1食1300円程度)で食べられます。 たまに、ソーニャマーカス夫妻が一緒に晩ごはんを食べようと招待してくれました。週一で息子のオリバーも帰ってきて、いろいろな種類の料理を食べることができました。

チューリッヒも中心部をすこし外れるとのどかな牧場や畑、チューリッヒ湖など自然豊かな場所が多く、ランニングや散歩をするのにぴったりの場所でした。ちなみに、現地では頻繁にマラソン大会が開催されており、僕もラボのメンバーと一緒にチューリッヒマラソンとまた別のマラソンに合計2回参加しました(どちらも10km部門ですが)。ラボのとある人は、二人一組で深夜にスタートし、自転車とランニングで、80kmを翌朝までかけて走り切るというハードなコンペティションにも参加していました。

チューリッヒはトラム(路面電車)が非常に便利で、市内のどこにでも1回の乗り換えで大抵のところは行けます。通学や市内のどこかに出かける際も自動車・自転車などはほぼ必要なく、すべてトラムで完結できます。僕もトラムを使って通学していました。人口が少ないので通学の電車が満員ということはなかったです。

費用については、僕の滞在していた期間はかなり円安の時期でした。円安があまりに進行したタイミングで那須田先生がそれに応じて月の支給額を調整してくださいました。生活費に関しては、経済状況も鑑みて、PIの方々とよく相談して柔軟に対応していただければと思います。
今回の滞在では、KEPLRに関わる多くの方々のご協力とご支援のおかげで、1年間という長期間の滞在が実現しました。本当にありがとうございました。

Author

Shunsuke Yoshioka

  • Nasuda Group
  • Kyoto University

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渡航報告:フランス・Université de Lille

SUDA Ryo

Nov. 26, 2024

2024年6月〜7月の約1ヶ月間、フランス・Université de Lille に留学し、Vincent Castric 博士のご指導の下ハクサンハタザオの自家不和合性に関する研究を行いました。

準備と渡航

2023年6月に日本で行われたキックオフミーティング、および11月にチューリッヒで開催されたキックオフミーティングに参加した際にVincentを交えてディスカッションを行い、日本産のハクサンハタザオを用いた研究をリールで進めることが決まりました。その後はメールでやり取りを行い、春頃には具体的な滞在日程を確定させ、航空券と宿泊先を手配しました。
リールへの移動は、往路はブリュッセル経由、復路はパリ経由で行い、市内へはTGVで移動しました。また、現地での研究に必要なデータは事前にSSDに保存して持参し、追加で必要になったデータについてはVPNで所属研究室に接続して転送しました。

リールでの研究

Vincentの研究室に整備されている解析環境を活用し、日本から持ち込んだゲノムデータの解析を中心に研究を行いました。到着した週の研究室セミナーでこれまでの研究や滞在中の計画について発表し、その後は週1〜2回の頻度でVincentとディスカッションを重ねながら研究を進めました。短い滞在期間ではありましたが、スピード感をもって取り組むことができました。
研究室では解析サーバーの設備が整っており、困った時にはテクニシャンに気軽に相談できるなど、解析を進める上で非常に恵まれた環境でした。研究室が入っている建物では、様々な研究材料を用いて進化生物学を研究しているメンバーが集まって大きな研究グループを作っていました。そのため、研究室セミナーでは多様な研究内容に触れることができ、毎回とても刺激を受けました。また、朝と昼のコーヒータイム、夕方のティータイムには多くのメンバーが休憩室に集まるので交流が盛んで、仲を深めたり気軽に研究について意見を交わしたりすることができました。私が解析を始めると、休憩室のホワイトボードに解析結果を予想する投票が作られるなど、みんなで楽しみながら研究を進める姿勢がとても印象的でした(ちなみに私は大きく予想を外しました)。
7月には、論文の共著者でヨーロッパのハクサンハタザオを研究しているドイツ・Ruhr University BochumのUte Krämer教授らとディスカッションを行いました。これまでの研究内容を共有し、今後の方向性について意見交換を行うなど、とても有意義な機会でした。また、キックオフミーティング以来2回目のヨーロッパ訪問だったので、この際にベルギー、オランダ、ドイツの3カ国を陸路で移動したのも楽しい経験でした。

リールでの生活

キャンパスには緑が多く、メトロに15分ほど乗れば古い街並みが残る中心街を散策できる、とても生活しやすい街でした。サッカーの試合でフランスが勝利した日や祝日には街全体が盛り上がり、その雰囲気を楽しむことができました。留学中は研究室と同じキャンパス内にある大学のInternational Residenceに滞在しました。留学が夏休み期間に重なったため、Residenceの留学生との交流はありませんでしたが、研究室の学生同士の仲が良く、日の長い夕方に研究室の建物の外でサッカーの試合を観戦したり、キャンパスでビールを飲んだりしました。現地の食事はとても美味しかったのですが、リール名物のチーズは匂いが強く、建物に持ち込むのは止められました。大学の学食もとても美味しいものでしたが、支払いに学生証が必要だったので友人に建て替えてもらっていました。現地ではタッチ決済での支払いが多かったので、それ以外で現金を使う場面はほとんどありませんでした。

キャンパス内の様子とリール旧市街のGénéral de Gaulle広場

リールは交通の便が良く、週末には周辺の地域に足を伸ばし、美しい街並みを訪れたり、自然公園で草原の花々を楽しんだりすることができました。特に平地の草原で日本ではより高標高で見られるような植生を観察することができ、とても興味深い体験でした。

Régional des caps et marais d'Opale自然公園の草原で見られた花々。

現地ではほとんどの場面では英語が通じましたが、フランス語が必要な場面では友人や通りがかりの人が助けてくれました。多くの方々の親切に支えられながら生活を送ることができたと感じています。また、キャンパスや街ではすれ違う人と挨拶を交わしたり、鉄道や飛行機で乗り合わせた人から話しかけられたりすることも多く、日本に比べて知らない人とのコミュニケーションが頻繁にある点が印象に残りました。滞在期間が短かったこともあり、研究や日常生活の中で積極的に質問をしたり、発信したりすることの大切さを強く感じました。

おわりに

1ヶ月というあっという間の滞在期間ではありましたが、Vincentをはじめ現地の研究室メンバーに支えられながら、充実した研究生活を送ることができました。今後はこの経験を通して学んだことを活かし、留学中の解析で得られた結果についてもさらに研究を深めていきたいと思っています。

Author

SUDA Ryo

  • Master's course student
  • Tsuchimatsu Group
  • The University of Tokyo
  • Environmental Responses
  • Multi-omics
  • Field science

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渡航報告:オランダ・Wageningen University & Research

SUZUKI Hidemasa

Sep. 1, 2024

筆者は2024年6–8月に85日間オランダに留学した。本稿ではその経緯と現地での体験を報告する。

渡航準備

 筆者は2023年に東北大学 植田研に籍を移し、新たなテーマで研究を始めた。研究対象の植物は筆者にもラボとしても初めての種であり、同分野で先行しているオランダ・Wageningen University & Research (WUR)のDolf Weijers教授らの元で実験技術を学ぶこととなった。渡航期間はビザ不要の90日間を上限とし、日本での実験が一段落する2024年6月からとした。
 渡航の準備はパスポートの更新・必要書類の作成・航空券の手配・住居の確保・保険の加入・植物の世話の依頼・荷造りが主で、2ヶ月ほどを要した。ネット環境には注意を払い、PC等は事前にeduroamを設定し、スマホも海外での利用に備えた。また、東北大学のVPNにも大いに助けられた。

オランダでの生活

 筆者にとっては5年ぶりの海外であったが、色々なことが一段と便利になったように感じた。まず、日常的な買い物はもちろんのこと、公共交通機関や公衆トイレに至るまで、すべての支払いがVisaのタッチ決済で済んだ。オランダ語の案内もGoogleレンズで即座に訳せるし、Google Mapには乗り継ぎ検索やチケット購入などで随分とお世話になった。実地で試す機会はなかったが、日常会話ならスマホに入れたChatGPTが難なく同時通訳してくれそうである。異国の地でもクレカ・スマホ・パスポートさえ持てば大抵のことはなんとかなるように思う反面、依存が過ぎている感も否めない。
 筆者の滞在したWageningenはネーデルライン川流域の緑豊かな街であった。川辺のDe Wageningse Geulでは足元の悪さに幾度となく行く手を阻まれたが、8月には水が引き、豊かな自然が垣間見えた(図1)。少し足を延ばして訪れたDe Hoge Veluwe 国立公園では、広大な園内を自由に散策でき、森林、草原、砂原とさまざまな環境を楽しめた(図2)。日本とは異なる植生に触れるまたとない機会となり、その方面への興味も深まった。

  • 図1. Wageningen 近郊の自然
    A. 川辺の湿原地帯。B. 自生していたブラックベリー。よく熟した実はすばらしく甘い。2 mあまりの茂みをつくり、甘い香りを漂わせていた。C. デューベリー。甘酸っぱく野趣に富み、ブラックベリーよりも小さいので種子の食感が際立つ。

  • 図2. De Hoge Veluwe国立公園
    A. 群生するヒース(手前)と砂原(奥)。B. ヒースの花(8月末)。C. 周縁部には針葉樹林が広がり、林床は低木のブルーベリーに覆われていた(6月末)。

オランダでの研究

 WUR(図3)では、研究者間の活発なコミュニケーションが印象的であった。生物、物理、化学など複数のラボが連携し、多角的な研究を効率的に進めている。日常的な和やかな交流が、スムーズな共同作業を支えているように思われた。
 筆者自身は語学力の不足もあって周囲に随分と迷惑をかけたが、どうにか当初の目的を達成できた。慣れない環境のなか、気にかけ助けてくださった多くの方には感謝に堪えない。8月になると休暇で人が減り、教わる機会も減ってしまった反面、顕微鏡をなかば独占して日本では手がだせずにいた観察を存分に試せた。ちょうどその頃発表された新規蛍光試薬を試すこともでき、時機を得た留学であった。

  • 図3. Wageningen University & Research
    A. 広々としたキャンパスに立法体のビルが点在していた。B, C. お世話になったビル「HELIX」。

おわりに

 今回の留学を通じて、技術の発展を実感するとともに、人の親切が身に沁みた。今後、国際交流がますます盛んになるなかで、受けた親切を別の形で返していけるよう努めていきたい。帰国した今、学んだすべてを生かし、決意も新たに研究に取り組んでいきたい。

Author

SUZUKI Hidemasa

  • Assistant Professor
  • Ueda Group
  • Tohoku University
  • Weijers G
  • Wageningen University
  • Reproductive Development
  • Imaging

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