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倍数体種の頑健性:ゲノミクスと野外画像の機械学習を用いた解析 / 清水健太郎教授 (Friday, January 06, 2023 ) 1410th Biological Science Seminar

TSUCHIKANE Yuki

Jan. 6, 2023

清水健太郎 教授(チューリッヒ大学進化生物学・環境学研究所)

2023年01月06日(金) 17:05-18:35 Zoomによるweb講義

倍数体種は野生植物にも栽培植物にも多くみられ、その長所と短所は長く議論されてきた。これまでよく研究されてきたのは、一方で古代ゲノム重複であり、もう一方は合成倍数体にしばしばみられるゲノムワイドな遺伝子発現やエピゲノムの変化であり、大規模な変化は「ゲノムショック」と呼ばれてきた。しかしゲノムの複雑さのため、倍数体種のゲノムレベルの解析は遅れていた。近年、ゲノミクスの進歩に加え、野外環境in naturaでの機械学習を用いた植物画像解析などの進歩により、倍数体種の長所と短所が分子レベルから明らかになってきた。まず、倍数体種のRNA-seq解析や野外画像解析から、両親種の環境応答を受け継いで組み合わせることにより、倍数体種が広い環境に適応する能力、つまり環境頑健性を得たことが示唆された。また、コムギ10+ゲノムプロジェクトやシロイヌナズナ属倍数体ミヤマハタザオなどを用いたDNA多型解析から、両親から多型を受け継ぎ、同祖遺伝子による突然変異頑健性によって進化可能性が高まったことが示唆された。どちらも、倍数体化以前に二倍体種で蓄えられた環境適応や多型を組み合わせることが倍数体化の重要な長所であることを示唆する。言い換えれば、倍数体の特徴は、ゲノムショックなどの突然のゲノムワイド変化ではなく、環境適応などに貢献する比較的少数の遺伝子群の組みあわせによると考えられる。このことは倍数体の長所を他種に移す合成生物学的アプローチの可能性を拓く。

参考文献
Akiyama et al. PlantServation: time-series phenotyping using machine learning revealed seasonal pigment fluctuation in diploid and polyploid Arabidopsis. bioRxiv, https://doi.org/10.1101/2022.11.21.517294, 2022
Shimizu, K.K. Robustness and the generalist niche of polyploid species: genome shock or gradual evolution? Current Opinion in Plant Biology, 69: 102292.
Walkowiak et al. Multiple wheat genomes reveal global variation in modern breeding. Nature, 588, 277–283, 2020.

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・発生細胞生物学研究室